澁谷誠/ベッセルホテル

しぶやまこと/1947年生まれ。府中市出身。1969年同志社大学商学部卒。ベッセルホテル開発代表取締役会長。ベッセル、福山ニューキャッスルホテル、ドトールコーヒー、ベッセルプリンティング代表取締役社長。ベッセルテクノサービス代表取締役会長兼社長。これから挑戦したい琵琶湖一周について「無理をしない程度に楽しむことは大事だね」と愛車Bianchに乗って語る。

福山で一番「若い」社長。

 年齢を重ねると共に、輝きを増すということは難しい。夏の日差しを跳ね返すかのようなまぶしいサイクルジャージで、待ち合わせ場所に颯爽と現れたベッセルホテル開発代表取締役会長、澁谷誠さん。
 「70歳でクロスバイクに出会ったんだけど、こんなに楽しいことがあったのかと。今は夢中なんですよ」
 なるほど、このところ、出会うごとに増しているように感じるキラキラの理由はそこだったのか。福山の老舗のシティホテルとして駅前に立つ福山ニューキャッスルホテルをはじめ、いくつもの会社の代表を兼務して、43年間、とにかく走り続けてきた。
 「休む暇なんか、全くなかったね」
 何十年という時間をホテル運営に費やしてきた。
 「お客様を大事にする想い、設備を美しく保つこと、そしておいしい食事がホテルには必要。あとは、コストパフォーマンスを上げることは絶対だと思っています」
 できるだけ多く旅行経験して欲しいと思うから、宿泊費を安くしたい。金額をおさえながらも満足度を上げる取り組みには、終わりがない。
 「実は私自身の罪償いだと思っているんです」
 少し照れ笑いをしながら話す。
 「毎日忙しく追われていて、こんな仕事をしながら私が家族を旅行に連れて行くことができなかったんです」
 日常を離れ、束の間の非日常を味わう旅行。家族との旅行は、互いの歴史の1ページになる大事な時間。それがわかるがゆえに、そういう機会をできるだけ多く作って欲しいのだと。それには、高いホテルになってはいけないと話す。

人生の残り時間が見えてきた
 2017年に70歳を迎え、この先はあと15年。そのうち、よくて10年健康でいられるとして、5年は病と向き合うとすると、残り時間が見える。
 「最近、自分がいなくなった後の日本のことも考えるようになりました」
 東日本大震災を受けて設立された、宮城県岩沼市の「千年希望の丘」という、堤防の代わりに木を植えて津波から街を守ろうというプロジェクトに2016年から参加している。
 「先日、木を植えに行ってきたのですが、1年に1メートル、その木は成長するそうです。コンクリートの堤防をいつか超えて、誰かを守ることができる。この木々が私がいなくなった後の日本を守るかと思うと、地域、国へのお返しが少しでもできるのかと思っています」
 必死に走り抜けている最中には、地域貢献など二の次にしか考えられなかったのに、今はそんなふうに思えるようになった。最近出会ったというクロスバイク。息子さんからのプレゼントがきっかけだった。
 「体を動かすことは好きで、テニスもゴルフもやっていますが、どれも複数人でやるスポーツ。気も使わないといけない。でも自転車は、一人なんです。ビジネスのしがらみもなく、とにかく自分と向き合ってできるスポーツ。私が挑戦する姿が、従業員にとってもいいお手本になればとも思っています。人も企業も日々カイゼンして、変化させていかないといけない。向上心は持ち続けないと」
 健康で動ける時間を10年と話す澁谷さん。その時間を少しでも伸ばせるように、毎朝の野菜ジュース、芦田川を早朝にクロスバイクで走る時間、福山城周辺の草抜きに、仲間とのテニスなど、早朝から体を動かしている。
 自分自身に残された時間はあとどれだけだろう。そんなことを考えさせてくれる人生の先輩に出会った。人の好奇心と楽しむ力は、こんなにも輝きを放つものだと知った。(文=井口絵海)

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