井口絵海/NPO法人mamanohibi

mamanohibiが生まれたとき。

 2010年の夏のおわり、福山市で立て続けに虐待事件が起きた。自分も行き交う街で子供の命が消えてしまったことに、とても大きな後悔を感じた。でも、テレビのコメンテーターは「親になる資格がない」、周囲からは「ひどい親だ」、当時はそんな言葉ばかりだった。
 なぜ、自分に何ができたか? そう考えないのか。私の子供もこんな「自分さえよければ」の社会の中で育てないといけないのか。こんな悲しい事件を繰り返さないために何かできないか。すぐ側で消えた命を意味あるものにするために私に何ができるのか。
子育ての不安や疲労を軽く
 考えた末、mamanohibiが生まれた。子育て中に出会ったママ友10人ほどが集まり、どういう場所があれば子育て中の不安や疲労を軽くできるだろうか考えた。既存の“子供達を遊ばせることが目的”の交流施設ではなく、子育て中の日々の迷いや悩みを吐き出せる場所が必要じゃないか。同じ気持ちを経験している者同士で受け止め合う時間は、ほんの少し心を軽くするのではないか。
 そこで私たちは育児セラピストのタイトルを取得し、ハッピーや不安を共有する「ママヒビミーティング」というおしゃべり会をスタートした。
 お互いの子供達を見守りながらお茶を飲み、お菓子を食べながら他愛ない話をして過ごす。「子育て相談窓口」では本当の胸の内は出しづらい。ママが楽しめることをしながら、そこに集う人たちと少しずつ関わっていく。とても時間がかかることではあるが、心に寄り添うことができてこそ子育ての不安を本当の意味で軽くすると思う。
 そしてそこで味わった楽しさ、優しさは、それぞれの生活の場に戻った時、恐らく周りにも同じように与えることができるのではないかと思う。それが、mamanohibiのコンセプト「1ミリのゆとりと1ミリのやさしさを」につながっている。
 夕方のスーパーでよく見かける光景に、仕事帰りのママが保育園のお迎えを終えて慌ただしく買い物をしているというのがある。そこで子供がワガママを言い、泣いて暴れてママはだんだんヒステリックになる。公共の場と分かっていながらも感情をコントロールできなくなっているママ。そこに周囲の冷ややかな目が刺さると、自己嫌悪も増幅して余計にひどく叱るパターン。そう、これは周囲の目による二次被害だと思う。「ひどい親ね」という冷たい視線は、虐待を助長する罪だと思うし、その認識をみんなが持つべきだと思う。子供はこの場合、完全に被害者だ。こういう時こそ、あたたかい微笑みで見守ることができる人が一人でも多く社会には必要だ。
 この社会に属する人はみんな、子育て従事者だ。「みんなの子供をみんなで守ろう」という私たちの想いには、社会全体が守り合えるようにとの願いも込めている。そんな中で育つ子供は自信が伸び、「自分さえ」という意識から、昔のように「お互いさま」と考えて動ける未来につながるはずだ。
 子供はいつか親の手から外に飛び出していく。そんな社会が少しでもあたたかいものである方がいい。悲しい想いをする子供が1人でも少なくなるように、まずはママの心を元気にしていきたい。この活動の中で出会うママと子供の笑顔が、あの日の後悔を少しずつ埋めているようにも思う。
 そんなmamanohibiの福山での活動はこの秋、8年目に突入した。
(文=井口絵海、写真=坂井文香)

NPO法人mamanohibi
2010年より福山で活動。おはなし会やイベントの開催、2016年より古民家を利用したママヒビハウスの開設、雑誌SWITCHとの連携企画など活動の幅を広げている。
https://www.mamanohibi.com

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